未来のかけらを探して

一章・ウォンテッド・オブ・ジュエル
―13話・お助けアイテムご到着―



“さ〜て、飛ばしていこうぜぇ〜♪”
“お馬鹿な事を言わないの。これ以上スピードを上げたら、船が持たないわ。”
行きよりも気持ち早く、氷の船が海を渡っていく。
波が少々高くシケ気味だが、そこはサファイアが波をなだめて収めている。
これも、水と氷の力を秘めた石ならではの技だ。
「わ〜、速いはやぁ〜い♪」
高速で過ぎ去る景色を、楽しそうにエルンがパササと眺めている。
行きにも散々見たのに、よく飽きないものだ。
それならプーレはといえば、ミルザの祖母にもらった本を熱心に読んでいた。
読めないところは、くろっちやロビン、もしくはミルザに聞いている。
まだ子供なのにえらい。と、町に住む子持ちの人間ならうらやましそうに言うに違いない。
(おれ、初等学校でもこいつみたいにまじめにやってなかったしな〜……。)
入学から一週間で問題児の烙印を押されたロビンに言わせれば、
まじめに勉強できる人間は自分達と違う生き物だ。
「プーレ君は、小さいのに熱心ね。」
「そうなの?だってこれ、けっこう楽しいよ?」
その手の本を楽しいといえる段階で、頭の構造が他人とは違うのだが。
まぁしかし、勉強を強制される環境に居ればやりたくなくなり、
そうでない環境に居たならやりたくなるという理屈という事も考えられる。
「(プーレはこの分だと、立派なアイテム士になれそうだね。)」
くろっちが、くちばしでプーレの髪を軽くつくろってやった。
チョコボ流の親愛表現だ。
「くろっちさん、くすぐったいよ〜。」
プーレがくすぐったそうに笑う。
ほのぼのとした光景を尻目に、ロビンは黙々と愛剣を磨く。
頭の中は、呪いをといた後の行き先の事と夕飯で一杯になっていた。
「なぁお前ら、戻って呪いを解いたら今度はどこに行くんだ?」
『え?』
そんなことは考えてもいなかったらしく、
お子様4人はあっけに取られたような間抜けな顔になった。
「え〜っと……ほかの六宝珠があるトコ。」
「(そこは判ってるのかい?)」
くろっちの鋭いつっこみに、思わずぎくりとなる。
「んー……大丈夫。教えてもらえるから。」
いまいちピントがあっていない返事に、事情を知らないものたちは大いに首をかしげた。


往路より短い時間で到着した村は、かなりひっ迫した状況だった。
出かける前よりも、村の男性たちの容態は悪い。
それだけに、パーティを出迎えた女性たちの表情は明るいものだった。
寒さで凍えていた冬に、一気に春風が吹いたようだ。
「おかえりなさい!」
「さぁ、早く導師様の下へ。」
「これでみんな助かるんだわ。」
嬉しそうに話す女性たちの明るい声は、こちらの気分まで浮き立たせるようだ。
「さぁ、こちらへ。」
そんな中、一人冷静な30台半ばの白魔道士が、一行を案内する。
迷うほど遠いわけではないが、客人に対する礼儀だろう。
それほど歩く事もなく導師が待つ場所にたどり着いた。
「おかえりなさい、良くぞ無事で。」
「ただいま戻りました、導師様。……これを。」
ミルザが、導師に祖母から渡された光の瞬きを手渡す。
「この暖かな光の輝き……ありがとうミルザ、よくやりましたね。
あなた達には、なんとお礼を申したらいいやら……。
ここからは、私たちで何とかなります。」
この上なく嬉しそうに微笑んだ導師は、
それを持って男性たちが伏せっている部屋へと向かった。
ミルザも彼女に従っていってしまったので、おとなしく座って待っている事にした。
「大丈夫かなあ?」
効くはずだった聖水についこの間裏切られたばかりなので、
いまいち不安が残る事は否めない。
「へーきへーき♪なんとかなるってばぁ。」
「そーそー。あのおばあちゃんもいってたし。
心配したってしょうがないヨ〜?」
「うーん……そうだね。」


一方その頃、導師は男性たちが寝込んでいる部屋で簡単な儀式の支度を始めていた。
「それはあちらに。ああそれと、こっちの燭台に火を灯して。」
他の魔道士たちにてきぱきと指示を出していき、
あっという間に支度を整える。
方陣の中央に配された光の瞬きの前に、導師がひざまずく。
「天におわす偉大なる神々の聖なる力を受けし、光の瞬きよ……。
清浄で穢れなきそのお力を持って、この地と人々を悪しき呪いから解放したまえ。」
光の瞬きから、ぱぁっと明るい球状の光がこぼれだす。
それらはあっという間に部屋中に広がり、
次いで壁をすり抜けて村中へと広がり、溶け込むように消えた。
体の隅々にまで染み渡る光は、生き物のように暖かい。
それから間もなく、男性たちの顔に生気が戻った。
奇跡的なまでの力に、思わず導師も息を呑んだ。
「良かった……。それにしても、これほどまでに清浄な空気に変わるなんて。」
「導師様、あの方たちにはたっぷりお礼を差し上げなければなりませんね。」
朗らかに笑いかけた壮年の黒魔道士に、
導師も笑顔で応えた。




―船着場―
翌朝早々に、プーレ達はダムシアン最大の港町に向けて旅立つ事になった。
六宝珠と話し合った結果、とりあえず先の話はそこに行ってからということになったのだ。
「これは、少ないですがお礼です。」
そう言って、村長がロビンに礼金を渡す。
どうやら今まで倒れていたらしく、今になって初めて姿を見せた。
「ありがとうございます。」
村長から渡された金袋は、なかなかずっしりとした重みがある。
感謝もしているに違いないが、意外にこの村はお金持ちなのかもしれない。
「もういっちゃうんですね。次はどこに?」
「とりあえず、ダムシアンで一番でかい港町があるところに行くんだ。
そこからならあちこちに向かって船が出てるし、都会だから色々計画も立てやすいんだよ。」
そうですか。と、ミルザが言った。
「ダムシアンに行くのはいーけど……ルビー、どこに仲間があるの?」
“言ってから話すって、昨日も言ったじゃないか。”
プーレが、パササの荷物袋の中を覗き込んで話しかけている。
平然と人前で話をするなといいたかったが、ルビーの声はどうも相手方には聞こえないようだ。
村長たちが怪訝そうな顔をしている。
「一体、何と話しておられるのじゃ?」
「いや……それは――。」
ロビンは焦っていいわけの言葉を捜す。
“もう隠す必要はありませんわ。”
ミルザのペンダント、もといサファイアがその場に居る全員にテレパシーを送った。
驚いたのは、他ならぬミルザ本人だ。
「?!」
サファイアは言葉を発した後、ふわりと浮かび上がってミルザの首から離れる。
そして、ちょうどパーティと村人たちの間に浮かんだ。
「こ、これは一体……。」
“驚かせてごめんなさい。お願いです、私の話を聞いてくれませんか?
いえ、聞いてもらわねばならないのです。”
驚きながらも、目の前の事実を否定する事も出来ずにただポカンと村人たちはたたずむ。
「一体……何を私たちに伝えようと?」
いち早く我を取り戻した長老風の男性が、
恐る恐るサファイアに問いかける。
“ご存知の通り、私はこの少女の家に伝わる宝石。
ですがそれともう一つ、私には本来の顔があります。”
水を打ったような静けさの中で、木の葉がすれる音が響く。
“遥か昔、大陸にあったある国で、
私は他の5つの宝石と共に、ある宝石職人の手でこの形を与えられ王に献上されました。
私たちは『六宝珠』と呼ばれ、その国が亡国となってなお名高い存在です。
大きく色の鮮やかな石が強い力を持つことはご存知でしょう?
ゆえに、悪しき者や欲におぼれた者達は私たちの力や価値を付けねらい、
自らの意思では移動もかなわない事をいい事に略奪を繰り返しました。”
サファイアの口調はあくまで穏やかだ。
諭すような優しい語り口は、他の二つとは違う。
“この村に呪いがかけられ、モンスターが現れたのもそのためです。
何の用意もなく直接出向いてくれば、私が操る水と氷の力の餌食になりますから。
呪いと瘴気の力であなた方をじわじわと追いやり、
精神と体力を消耗しきった頃にやってきて、
私を渡すように何らかの方法で仕向ける気だったのでしょう。”
実に汚いやり口である。
真相を知った村人たちは、皆一様に魔物への怒りをあらわにした。
狩猟と魔物退治を生業とする村人たちはまた、
ミルザの家に伝わるサファイアを村の守り神として大切にしているのだ。
一方くろっちやロビン辺りはある程度予想していたらしく、
やっぱりというように顔を見合わせた。
“私がここにある限り、悪しき者たちは何度でもこの村を狙うはず。
金銭欲や誇示とは関係なく、私を大切にしてくれたあなた方が危険にさらされることを、
私は決して望みません。“
サファイアの思いは、ルビーとエメラルドにはよくわかる。
彼らを献上されて以後国宝として扱った国が滅んでから、
王家の墓は盗掘され六宝珠は世界各地に散った。
それから持ち主を転々としたが、金銭欲と顕示欲にあふれた醜い人間たちがほとんどだ。
ごく稀にいい持ち主に出会っても、権力者がすぐに取り上げてしまう事がしばしばあった。
サファイアにとって、ここは愛するに値する人々が住む安住の地だったに違いない。
だからこそ、自らを狙うもの達の犠牲にしたくないと願うのだ。
「私たちの身を、案じてくださるのですか?」
“ええ……。ですから私は、この方達と共に外の世界に出る事にしました。
この方たちは、私の仲間を二つ持っています。彼らが私に、仲間を探そうと提案しました。
そして、悪しき者が手出しできない所へ行こうとも。“
サファイアがまたいったん言葉を切ると、違うテレパシーが全員の耳に届く。
“そう。嘘じゃない。現にわれわれはここに居る。”
今度は、荷物袋からルビーとエメラルドが現れた。
「し、しかし……。」
「村長殿、よしましょう。私たちはサファイア様のお心を無に出来る立場ではありません。
例え人ならざる存在だとしても、私たちを犠牲にしたくないという気遣いを、
無にしていいはずがないでしょう?」
導師に諭され、村長はしばしうなる。
例え助けてもらったとはいえ、サファイアを行きずりのものに渡してしまっていいのか。
村の祭事に影響が出るとか、そんな低次元なこととは関係なく村長は悩む。
自分は全くではないが、反対するつもりはない。
しかし、村人たちは納得してくれるだろうか。
村長は、後ろに控えている村人たちの顔を眺める。
まだ体力が戻らず臥せっているものと子供などを除けば、大体皆ここに居る。
「皆の衆。わしはサファイア様のおっしゃる事に異を唱えるつもりは無いが……。
お前たちの中で、異議があるものはおるか?
これは村全体に関わる事じゃから、遠慮をせずに言って欲しい。」
村長がそう呼びかけたが、誰も反対するものはいなかった。
彼が決めた事ならば従うという、結束と信頼の現われのようだ。
だが、一人だけこう発言した。
「サファイア様……あなたのお考えに決して反論はいたしません。
しかしせめて、あなたを今脅かしているものとは一体何か、教えては下さいませんか?」
「そーいえば……ねぇ、それって一体何ナノ?」
今までおとなしくしていたパササも、村人の一人の言葉で急に気になりだしたようだ。
“残念ながら、まだ私にもはっきりとはわかりません。
しかし、今世界でクリスタルを略奪するバロンの黒幕とは違います。
そう……もっと静かににじり寄る恐怖です。”
人間だったら目を伏せていたであろう声音。
形は人では無いのに、どこか人間のような感じを受けるのは声に感情があるからだ。
「そうですか……わかりました。」
まだ納得がいっていないようだったが、本人にもわからないならば仕方ないとあきらめたようだ。
“きちんと説明する事さえも出来なくてごめんなさい。
今まで私を大切にしてくれてありがとう。”
別れを告げると、サファイアはプーレの荷物袋に収まった。
他の2つも、元の場所に帰る。
「お礼には及びません。さぁ、その方達と一緒に早くその船へお乗りくだされ。
……お気をつけて。」
プーレ達は、言われたとおり桟橋から船に乗り込んだ。
船は船着場から離れ、ゆっくりと大洋に向けて漕ぎ出す。
「ミルザ〜、ばいばーい!」
エルンが手を振ると、ミルザも嬉しそうに返してくれた。
先ほどは気がつかなかったが、その隣には彼女の両親らしき男女が居る。
「今度は遊びにきてね!」
『うん!』
交わした約束がいつ果たされるかはまだわからないが、
その時は何も心配事が無い時に来たいと、そう思わずにはいられない。
「おいチビたち、そんなに乗り出してるとおちちまうぞ。
こっから先の海は、ちょっとばかし荒いんだからな。」
いかにも荒くれ者といった風貌の舵手は、船から乗り出しかけた3人をたしなめる。
「そうそう!海にドボーンって落ちても、おっちゃんたちは助けねーからな。」
ガハハと豪快に笑った他の船乗りは、ひょいひょいと3人を下ろしてしまった。
「うっわー、それが大人の言うせりふ〜……?
およげないからって、子供をみすてるんだーサイテー。」
「こんのクソガキーーー!!!」
パササの爆弾発言に、あんまり大人げがあるとはいえない船乗りはぶち切れてしまった。
「おいこらパササ!お前大人をおちょくってんじゃねーよ!」
「え〜、だってこのおじさん、助け『らんない』じゃなくて、助け『ねー』って言ったじゃん。
それって、群れの大人としてどうかとおもうんだけどナ〜。」
「あたし、パササにちょっとさんせぇー。」
「どうでもいいから、お前らもう喋んないで船室に引っ込んでろ!!」
ほっといたらどんどん怒りをあおりかねない二人を、
ロビンは首根っこつかんで無理やり船室の中に放り込んだ。
その騒ぎを傍観していた、3人目の船乗りはコンパスと地図を片手に空を見ていた。
「どーも……今日はこれからしけてきそうな気がするなぁ。」
凪というには不気味に静かな海に、
嵐のような静けさを感じ取ったのは自分の思い過ごしだと思いたかった。



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やっとレムレース村とお別れにこじつけました。
ここから先は、まーた忙しい展開を予定しておりますが。
プーレ達がこれからどういうひどい目に(すでに確定)会うかは、
書きあがるまで本人にもわかりません。(爆
毎回恒例・更新にこぎつけるまでにかかった日数は、書いてる側もナーバスになるくらいかかりました。
う゛〜……1ヶ月半もこれは間にあった原稿のせいばかりじゃないです、ええ。